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捨てられないもの

亡夫の遺影の前に、2つの赤い小さなボックスがある。
革製、金色のラインがはいっていて、かわいらしい。
そう、指輪のケース、2個ある、つまりは結婚指輪のケースだ。

亡くなった連れ合いとの結婚は遠隔結婚だった。
つれあいが送ってきた結婚届を、私の住居地であったところに提出した。
実際につれあいと合流したのは3か月後であった。
つれあいの赴任地で、最初の土曜日、街に出た。
宝飾店で結婚指輪を買った。

結婚指輪とはフランス語で何というか、知らなかった。結婚はマリアージュ、指輪はバーグ、それならbague de mariage(バーグ・ド・マリアージュ)かと思いきや、allianceアリアンスという。
正式にはanneau d'allianceアノー・ダリアンスというらしい。
つれあいは再婚、2度目の結婚指輪なのだ。

結婚指輪を作ったものの、つれあいはほとんど身につけなかった。
どういう理由かしらない。外国であるから、結婚指輪をつけないほうが異端視されるのに、なぜかつけなかった。強いて理由は聞かなかった。
ときに、その理由をそれとなく聞く、好奇心の異常に強い人もいたけれど、答えをしらないから返事はしない。
つれあいの指輪は、いつしか私の宝飾品と一緒になっていた。

6年前、つれあいは亡くなった。
お棺にはいれなかった。近年、金属はいれられないとかで、眼鏡をダメだった。
私も指輪をはずした。もともと、外出の際にはつけるけれど、庭仕事、畑仕事時には邪魔になるので、つけないことのほうが多かった。

赤い革のケースにそれぞれしまい込んで、引き出しの中にあった。
夫を亡くした妻たちに聞きたかった。おつれあいの指輪はどうなさいましたか?
なかなか聞けることではない。

つれあいに聞きたかった。あなたの最初の結婚指輪はどうしたの?と。
最初の妻が唯一・無二の存在だったの?だから、指輪を身につけなかったの?
今更、知りようのないこと。

結婚指輪について、小説で記憶にある、といえば、「風と共に去りぬ」で、スカーレット・オハラが、義妹のメラニーが南軍の軍資金拠出のために、彼女の結婚指輪を寄付するのにあわせ、自分もはずして寄付してしまう、という場面だ。メラニーの夫アシュリーはまだ生きていて、スカーレットの夫は戦死していた。彼女は未亡人だった。
それをレット・バトラーはメラニーの分だけ買戻し、スカーレットの分は知らんふり。
結婚指輪のエピソードとしては、とても面白い話だ。

ウクライナの戦争で、ロシア産の金が禁輸になっている、という。市場では金の価格が高騰しているのと、量的にも不足しているのだとか。

果たして、結婚指輪は愛の証か、愛の誓いか?

考えてみれば、昔々は結婚指輪などしなかった。
西洋の、基督教の模倣でしかない。
カーテンのわっかでも愛の印といえば、ありがたがった時代もある。
さあ、どうする?

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