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フランス版パラサイト

フランスの家庭の中で過ごしてみると、いろんな現実が見える。大体において、裕福な人たちばかりだが、先日のお茶の席で、母親の元で暮らしている50代と思える男性に会った。

頑丈な体つきなのだが、何か弱しい印象だ。目が死んでいる。体を前傾させ、少しふらつくこともある。

彼の母親が、小声で言う。随分長く失業してるの、離婚もして、住むところがなくて、転がり込んできたのよ、放っておくとSDF(ホームレス)になるでしょ、仕方ないわね、と。

その母親の家をおとずれた。ノートルダム寺院のすぐそば、パリのど真ん中にある。6階建;の最上階にある。古いけれど、手入れはされている。

いい場所でしょう?親から相続したのよ、と自分から説明して、家の中を案内してくれた。サロン、食堂、いくつかの小部屋があるのだろう。失業者たる息子が顔を出し、別の部屋から、滞在中の中学3年生という孫も挨拶に出てくれる。

彼女の部屋は、寺院に面した最高の立地条件だ。寺院裏側の公園の先には、セーヌ川も見える。
いい部屋でしょう、大好きな部屋よ、ここで1日過ごしても飽きないわ、という。ベッドは壁に組み込むスタイル、机も、寛ぐ椅子もあって、全てが揃っている。

息子の寄宿で、寝室を譲ったのだろう。

息子も加わって、お茶にする。ビスケット、クッキー、それにミントティー、シンプルだ。
話好きの人で、息子に、こうなった事情を説明するように指示する。
息子は、アメリカ西海岸の大学もでている。成績もよかったとか。出版関係で働いていたという。会社名を聞くと、私でも知っている、世界的な出版社だ。

時代の流れが彼をこんな境遇に落としたらしい。節税なのか、脱税なのか、会社が外国に本拠を移転することになり、移動を拒否した結果、失業したという。そして、それが滑り台を滑り落ちることになり、それから這い上がれないでいる。

もう何年、こんな状態なのか、将来をどうするのか、聞くに聞けない。母親は80代、年金暮らしだろう。夫は悲惨な事故で亡くなったそうだ。家は親からの相続で立派なものがあるけれど、税金や経費も相当払うはずだ。

完全にパラサイト化した息子に、頑張ってね、など言えない。出版業界も日進月歩、一旦離れると、復職は殆ど不可能だと思う。
このままパラサイトを続けるのか、それはいつまで可能なのか、母親の健康にもかかっている。

このステキなアパートも、彼がすんなり相続できるかはわからないし、相続税や他の兄妹への支払いも生じよう、と、要らぬ心配をしながら辞去した。
ノートルダムに来たら、いつでも寄ってね、と温かい声がかかった。
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